連載小説『かすみ荘の住人たち』

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かすみ荘の住人たち 第二十一話~孤立しないために~

 私は大学の社会福祉学部で学び、卒業論文は地域福祉に関する調査をして執筆した。
 その調査を活かして卒業後は地域に関わる仕事に就きたいと考えていたのだ。地域に生じる課題を解決するための仕組みをつくりたい。まだまだ世間知らずの若い私は、そんな漠然とした大きな夢を思い描いていた。
 当時の私の問題意識は血縁、地縁といった縁が希薄になった社会で、どうすれば単身高齢者が安全で安心した生活を送ることができるかということだった。
 そう考えるきっかけの一つは、ばあちゃんの言葉だった。

「一人は気楽だけど、不安も寂しさも大きいのよ。なんかあった時、若い時みたいに体が動くわけじゃないしね。近所付き合いも昔みたいに盛んじゃないし。毎日が日曜日ってのも退屈なもんよ」

 ばあちゃんにしては珍しい弱音だな、なんて思いながら聞いていると、すぐに「私はまだ幸せな方よ。健康だし、こうやってあなたも来てくれるしね」と、すぐに明るく振る舞って見せた。

 だけど、それはばあちゃんの心の声に違いなかった。
 今は良くも悪くもお互いを干渉しない時代。縁は希薄になったけど、SNSでは名前も顔も知らない誰かと繋がることが意図もたやすくできる。
 それが悪いことだとは思わない。だけど、ちょっとの気遣いや心配りができるつながりとか、行って楽しいと思える場所が身近な地域にあれば、情報・物理的なバリアを感じている高齢者の生活はより良いものになるんじゃないかな、と感じていた。
 そんな私にとって実習で実際に現場の様子を見たことは、とても良い機会だった。
 それは三回生の時、とある社会福祉協議会の現場実習に参加した時のことだ。その実習期間中、ちょうど定期的に行われているサロンと体操教室の開催に関わることができた。
 サロンでは百円を払えば珈琲とお茶菓子が提供され、喫茶店のような雰囲気を過ごすことができる。顔馴染みと自由に談笑したりして、みんなが楽しそうだった。
 体操教室では大勢が集まり、和やかな雰囲気で体操をすることができる。一人で継続することはなかなか難しいことだけど、同じ目標を持った仲間の存在は心強いもの。
 どちらも利用者みんなが生き生きとしていて、とても有意義な活動だと思った。
 早速、私はばあちゃんにサロンのことを提案してみた。

「せっかくだけど、あんまり、そうゆうところにはねぇ・・・・・・私には合わないわよ、きっと」

 勧めておいたくせに、その答えを聞いて私はすぐに納得できたので、それ以上の提案はせずに「そうだよね」と話を終えた。
 実習が終わっても、サロンにはボランティアとして関わり続けた。
 ばあちゃんは決して人付き合いが悪いなんていうことはない。人間関係も大切にする。だけど、ばあちゃんはそういう形式的な集いの場を好むタイプではなかった。
 運営する側には私のような学生だけじゃなくて、高齢者のボランティアも多くいて、それも当人にとって楽しみや生きがい活動の一つとなっていた。
注文を聞いたり、飲み物を運んだり、利用者と談笑したり。本当の喫茶店とは違って、ゆっくりとした作業ペースで時が進み、お客さんを待たせても怒る人はいないし小さなミスも一つの笑いになる。
 そういう形で高齢者の参加できる場があることは素敵なことだと心から思っていた。
 しかし、私が関わりを持ち始めて半年ほど経った頃、その年度をもってサロンの閉鎖が決定したと聞かされた。運営する人材の不足から利用者の減少に繋がったことが原因だった。
 高齢者のボランティアスタッフが体調不良や入院などで次々と欠けていったことが背景にあった。ボランティアスタッフに無理を押してでも活動に参加してもらうわけにはいかない。だからと言って、すぐに別のボランティアを集めるのは簡単なことではない。
 人材不足以外にも利用者の偏り、運営する側の資金の確保など、サロン活動を継続するにはいくつかの課題がある。
 利用者の多くは積極的に外に出ようとする人達で、いつも同じメンバーが集うのは仕方ないことだけど、新たな利用者が入りにくい雰囲気は多少なりとも感じられた。サロン活動は一つの形としてとても有効だけど、円滑な運営を継続するためには他に違う仕組みが必要だと私は思った。介護保険サービスを利用せず、このような場にも参加しない単身者が孤立することに繋がってしまうのだから。
 自然な形で行われる安否確認、つまり昔あった縁のような仕組みがあればいい。
 その漠然としたものを生み出すヒントを探りたくて、大学を卒業した私は訪問介護の仕事に就いたというわけだ。
 そして、今の仕事はケアマネジャー。利用者の生活を多角的に捉え、ありとあらゆる資源の活用について、漸く少しだけ考えられるようになった。

 共通価値の創造ー

 誰かの生活は、決して一人だけでは成り立たない。いろんな人達が関わっている。みんなに共通の理解が生まれ、そして、みんなにとって有益となる関わり方を作り出すことができれば最善だと思う。
 私は少し広い視野を持ち、利用者が地域社会の中で生活しているイメージを大切にしていきたい。
 だから、自分の支援内容について、これからは俯瞰してみようと思う。

 本屋さんに立ち寄って少し気分転換をするつもりだったにも関わらず、こんな感じで結局は仕事のことを考えてばかりの休日だった。